寺山修司
人生を語るには、
もう方言しか残っていない
人は人生のうちで一度だけ詩人になるものである。
だが、やがて「歌のわかれ」をして詩を捨てる。
そして、詩を捨てそこなったものだけがとりのこされて
詩人のままで年老いてゆくのである
書きとめられる前から航空工学はあった
記憶される前から空はあった
そして
飛びたいと思う前からおれは両手をひろげていたのだ
『人力飛行機のための演説草案』
ぼくは不完全な死体として生まれ
何十年かかかって
完全な死体となるのである
『懐かしのわが家』
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寺山は両手を広げるのが好きなんだな
海を知らぬ少女の前に麦藁帽のわれは両手をひろげていたり
寺山修司