民放テレビ局の収益の急速な悪化について
以下のような報告が出ている。
人口減少や少子高齢化が商品とサービスの需要を減少させる。
すると内容の劣悪化が起こり、さらに商品価値がなくなっていく。
人口構造や疾病構造さらにはウェブ技術が思想や宗教や死生観、
さらにテレビの内容や文学を変容させていくという、
下部構造が上部構造を変えることの典型例を見るような気がする。
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もはや「融合」は時代遅れ・下り坂のテレビ局が取り組むべきこと
メディア業界のこの夏一番の出来事は何だろうかと問えば、多くの人は日本でのiPhone発売を挙げるだろう。しかし私は、メディアの構造変革の予兆を示したという点で、やはり民放テレビ局の収益の急速な悪化を最も重要な出来事ととらえている。(岸博幸の「メディア業界」改造計画)
■民放の急速な収益悪化
民放5局の収益の悪化のペースは予想以上に早い。2008年3月期の決算を見ると、売上高は前期比で微減にとどまっているが、純利益は4局で前期比30―50%程度の減少となっている。加えて、今年の第1四半期の決算では、3局で経常利益が前年同期比40%以上の減少となっている。
収益の悪化が続くなか、既に4局が2009年3月期の業績予想の下方修正を発表。そのうち3局では経常利益、純利益ともに予想を30%程度も下げている。また、5局すべてで役員報酬・賞与を一部カットするという、前代未聞の事態も起きた。
注目すべきは、民放局の本業である放送事業の営業利益が特に悪化していることである。08年3月期の数字で5局とも前期比約20―50%という大幅な減少となっており、今年の第1四半期ではさらに悪化している。本業の柱である広告収入のうち、特にスポット広告の落ち込みが大きく影響していると考えられるが、それにしても悪化のペースが早過ぎると言わざるを得ない。
もちろん、こうした収益悪化は民放5局に限った話ではないであろう。新聞も同じような状況だろうし、ローカル局や地方新聞に至ってはもっと悲惨な状況に陥っているところもあると聞いている。■収益悪化の3つの要因
それでは、こうした収益悪化の原因は何であろうか。よく言われるのは、景気悪化による企業の広告費の削減と、インターネットへの広告費のシフトの2つだが、それだけが原因と受け止めると対応を間違える可能性がある。個人的には、以下の3つの構造的要因が影響しているのではないかと考えている。
第1は、日本の国内市場の構造変化である。自動車市場を例にとれば、国内新車販売台数は3年連続減少し、ついに自動車保有台数も戦後初めて減少に転じた。つまり、国内の自動車市場は縮小しているのである。今後は、人口減少や少子高齢化により、自動車のみならず様々な商品・サービスで、広告宣伝の対象である国内市場が縮小するであろう。企業の広告費は、景気変動に関係なく構造的に減少トレンドに入った可能性があるのではないだろうか。
第2は、マスメディアとユーザーの関係の変化である。YouTubeなどに違法に投稿された番組も含めれば、ネット上ではユーザーは見たいときに見たい映像を見ることができる。ハードディスクレコーダーの普及も「見たいときに見る」というユーザー主導の習性を後押しする。その影響が、マスメディアとユーザーの関係にも及んでいるのではないか。放送局が設定した時間にユーザーをテレビの前に座らせて“見させる”いまのビジネスモデルが危機を迎えているといえる。
第3は、番組の質の低下である。本当に面白くて世間が注目する番組ならば、誰でも見たがるはずだし、その際はパソコンや携帯よりもテレビの大画面の方が好まれる。例えば、ネット配信(=テレビ離れ)が急速に進む米国でも、今年2月のスーパーボウルはテレビの歴史上2位の視聴者数を記録した。番組自体がつまらないから、ユーザーはテレビから離れ、広告費も離れて行くのではないだろうか。■通信と放送の融合だけでは儲からない
このように考えると、民放局の収益の急速な悪化は、景気変動などによる一時的なものではなく、構造的なものと捉えるべきであろう。その場合、民放局はいかに対処すべきであろうか。個人的には3つの基本方針が必要と思う。
第1に、以前の私も含めて多くの専門家は「だからこそ通信と放送の融合を進めるべき」と言うだろうが、いまの私の考えは異なる。反省を込めて言えば「融合」に惑わされるべきではない。
融合を日本で最初に喧伝した者として自信を持って言うが、未だに融合を叫ぶのは時代遅れである(政策としては必要であるが)。米国で広告モデルを採用するビデオサイトの大半が赤字であることからも明らかなように、ネットの収益への貢献は大きくないからである。テレビ広告収入の落ち込みは、ネット収入では補えないのである。
だからこそ、放送局は融合を超えたビジネスモデルの確立を目指して、取り組みを早急に始めるべきである(私なりのビジネスモデルのイメージはあるが、紙幅の関係もありここでは省略する)。今のビジネスモデルに永続性がないことは急速な収益悪化から明らかであり、かつ融合だけでは問題は解決しないのである。
第2に、放送事業もビジネスである以上、苦境に陥りつつもまだ余裕がある今のうちに、事業再生の基本に立ち返るべきではないだろうか。事業再生の基本は、(1)徹底した無駄の削減をする、(2)コアコンピタンスのある事業に資源を集中するとともに、その成長戦略を確立する、(3)不採算事業は切り離す、という当たり前のことである。無駄の削減の余地は大きいと思うので、民放局は最悪(1)だけでも数年はしのげるであろう。問題は、その間に(2)と(3)をしっかりと実行できるかである。
第3は、第2点目の延長となるが、本業の強化を優先すべきという点だ。報道によると、多くの民放局が番組制作費の削減を始めたようだ。それが無駄な経費の削減なら正しいが、その場しのぎの帳尻あわせだったら、誤った対応と言わざるを得ない。
民放局のコアコンピタンスは何か。異論はあるだろうが、私は番組制作力とブランド力だと思っている(かつては番組送信能力が最大のコアコンピタンスだったが、それはネットの普及とともに価値を失った)。それでなくとも番組の質が低下しているなかで、過度の番組制作費の削減はコアコンピタンスの喪失につながりかねない。今のNHKがその典型例である。本業以外の収入を増やす努力はもちろん必要であるが、本業にまだコアコンピタンスがあるうちに、その再強化をすべきではないだろうか。
■危機をチャンスに変えよ
いろいろと言ってきたが、民放局にはぜひ頑張って今の苦境を乗り切り、新たな収益モデルの確立に向けて頑張ってもらいたい。かつての小泉政権における改革と同じで、危機は変革のチャンスである。
単なる融合だけでは儲からないなか、本業以外で収入を増やすのも結構だが、コアコンピタンスのある本業の新たな形での再生こそが日本のために必要であり、そのビジネスモデルを自ら追求しなくてはならない。そうしないと、また資本の論理だけに基づくネットベンチャーの攻勢にさらされるだけである。